CO2削減EV洞爺湖キャラバン


 2008年6月20〜26日にかけて、日本EVクラブにより「CO2削減EV洞爺湖キャラバン」が行われました。概要は次のとおりです(以下データーの出典はhttp://www.jevc.gr.jp/evtc2008/blog/2008/06/post-3.html#more)。ここではこのデータについて検証してみます。

○コース:東京〜那須塩原〜福島〜古川〜盛岡〜八戸(フェリー)〜苫小牧〜洞爺湖
○車両:i MiEV(三菱)、R1e(富士)

1 記録された電費

(1)総合電費


 この7日間のキャラバンの結果(2台の平均値)は次のとおりです。

○全走行距離:858.7km
○消費電力:85.65kWh

 したがって、2台の平均電費は

 858.7/85.65=10.0km/kWh

 i MiEVの車重は1080kgとR1eの920kgより大きいので、i MiEVの電費の方が悪いと思われます。


(2)特に電費の良かった区間電費
 
 特に電費の良かった区間電費は次のとおり。

記録日 車種 区間 同住所※ 距離 電費 ドライバー 特記事項
1日目 R1e TEPCOさいたま
〜高岳製作所
埼玉県さいたま市中央区本町西4-17-10〜栃木県小山市大字中久喜1440 65km 14.3
km/kWh
石井昌道 1時間渋滞
5日目 i MiEV 岩手県庁〜東日本三菱
自動車にしね店
岩手県盛岡市内丸10-1
〜同八幡平市田頭第36地割8
約28km※ 13.68
km/kWh
国沢光宏 登り坂
※は私が調べたもの

 
2 計算上の電費

(1)50km/h定速走行電費(平坦路)

 三菱自動車が公開しているi MiEVのデータに走行性能曲線が掲載されています。

資料1 http://www.mitsubishi-motors.co.jp/corporate/technology/report/pdf/technical_review_2007.pdf
資料2 http://www.mitsubishi-motors.co.jp/corporate/technology/report/pdf/technical_review_2008.pdf

  キャラバンでは首都高速を60km/hで走行していたぐらいなので、一般道では平均50km/hで走行していたと考えました。走行性能曲線図では50km/hの走行抵抗(転がり抵抗+空気抵抗)は230〜240Nあたりに見えますが、仮に220Nとして50km/h定速走行電費を計算してみます。

 走行距離Lkmとして

○転がり抵抗に消費するエネルギー、給電量


 転がり抵抗消費エネルギー=220L kJ

資料1、2に掲載されたTank to Wheel の走行効率67%(充電効率0.83を含む)で除して給電量を求めると

 220L/0.67=328.36L kJ

○電費

 距離/給電量=L/328.36L=0.003045km/kJ

 3600を乗じて

11.0km/kWh

(2)50km/h定速走行電費(登坂路)

 1-(2)の5日目のデータは「登り」でのデータです。
 
 Google Earthを利用して出発地点と到着地点の高低差を調べると、約125mありました。

 したがって、この区間28kmを50km/h定速走行して消費するエネルギーは

○転がり抵抗・空気抵抗に消費するエネルギー

 220×28=6160kJ

○登坂抵抗に消費するエネルギー

 (車重+体重)×9.81×高低差=(1080+70)×9.81×125/1000=1410kJ

  合計して、7570kJ。

 したがって、給電量は、Tank to Wheel 走行効率で除して

 7570/0.67=11300kJ

  計算上の電費は

 28/(11300/3600)=8.92km/kWh

3 実測電費と50km定速走行電費の比較

(1)全行程(1-(1)のデータ)

 2車の平均電費は10.0km/kWhで、i MiEVの電費はR1eより悪いでしょうから、9.5km/kWh程度と想像します。50km/h定速走行電費(平坦路計算値)11.0km/kWhを少し下回るレベルです。少し良すぎるように思いますが、ありえない値ではありません。

(2)燃費ベストデータ(1-(2))

 i MiEVのベストデータ13.68km/kWhは50km/h定速走行時電費(登坂路計算値)を53%も上回るものです。とても走行効率の改善、走行条件の違いで説明できるレベルではありません。

 また、R1eの走行抵抗がどの程度がデータありませんが、車重から考えて、50km/h定速走行電費(平坦路)は12km/kWh程度だろうと思います。この区間の出発後1時間渋滞していますし、標高を調べると、到着地点の方が25m高いのです。i MiEVのベストデータほどではないにしろ、定速走行電費(平坦路推定値)を19%を上回るR1eのベストデータ14.3km/kWhはちょっと考えにくい数字です。

4 実測電費の算出方法

 実は本キャラバンのレポートの大きな問題は、

充電方法、電費の計算に必要な給電量の把握方法が示されていない

ことです。そこで、想定される給電量把握法とその問題点について、i MiEVを主に検討しました。

(1)電気自動車給電点での電力量 (2)バッテリーでの
消費電力量
(3) 給電電源の給電量 (4)充電量

 概ね適正に給電量を把握することができます。ただし、充電後の電池の状態が出発前と同じでなければ誤差が多いという問題点があります。

  i MiEVのベストデータ区間の到着地点・東日本三菱自動車にしね店に45分程度しか滞在していません。i MiEVとR1eが並んで写っている写真がありますから(2車が同時に滞在)、両車の充電時間は各々20分程度でしょう。仮に40分急速充電したとしても満充電には不十分だと思われます(資料1参照)。

 また、R1eのベストデータを記録した日は、出発前に急速充電しています。到着後の高岳製作所は急速充電器製造メーカーですのでおそらく急速充電したでしょう。ただ、5分間という短い充電時間ですから、不十分な充電時間です。

 ですから、本法で給電量を把握していたとするなら、i MiEV、R1eいずれのベストデータも、出発前と同じ充電状態になっていないにもかかわらず、給電量を算出したことになります。

 三菱自動車が2007年9月28日に電費算出方法に関する特許出願を行っています(特許出願2007−253111)。この方法(本頁末尾参照)では、バッテリーの初期残電力量と充電後の充電電力、消費した電力の関係から電費(km/円)を算出しており、消費電力が計算基礎データとして使用されています。

 この消費電力には充電ロスが考慮されていません。資料1、2では充電効率83%ですから、1/0.83=1.20 20%程度水増しされた電費が算出されます。

  本キャラバンではこの方法で電費を算出しているようです。

 充電に要した電力量を把握すること自体が困難です。

 急速充電器を使用する場合、急速充電器で消費した電力量を把握することができるかもしれませんが、急速充電器自体の変換損失を考慮する必要があります。

 問題は家庭用電源を使用する場合です。本キャラバンでもコンビニ、旅館等の事業所で充電していますが、事業所には電力計が1箇所しか設置されていないのが通例です。ですから、充電だけに要した電力量を正確に把握することはできません。

 また、(1)と同様、出発前と給電後のバッテリーの充電状態が同じでなければなりません。 

 区間毎の充電量をバッテリーの充電状態で把握する方法です。この方法には、(2)と同様、充電ロスが考慮されていないことに加えて、(1)、(3)と同様に充電後の状態が出発前と同じでなければ誤差が大きいという問題点があります。 

 i MiEVのベストデータがあまりに良いことから、区間によってはこの方法を採っていた可能性もあります。
 
 i MiEVがベストデータを記録した区間について、ドライバーの国沢氏が次のように書いています

盛岡県庁をスタートすると、運悪く平均10〜15mという進行方向からの爆風!しかもずっと登り区間な上、幹線国道とあって流れるスピードも速い! こらもうエコランとしちゃ最低の条件です。相当電気喰ったろうなぁ、と思いきや、急速充電で立ち寄った三菱自動車にしね店でチェックすると1kW当たり8,06km走っているそうな。この電費なら満充電すれば130kmくらい走るという。」(原文のまま)

 この「kW」がkWhの間違いだとすると、区間電費は8.06km/kWhで、館内氏が主張する13.68km/kWhと大きく異なります。8.06km/kWhは充電効率を考慮すると8.06×0.83=6.69km/kWhとなり、50km/h定速走行電費(登坂路計算値)8.92km/kWhからすると当然の値です。

 2009年6月5日、i MiEVの市場投入に関するプレスリリースの諸元表では次のようになっています。

10・15モード交流電力量消費率(国土交通省審査値) 125Wh/km
10・15モード一充電走行距離(国土交通省審査値) 160km
総電力量 16kWh

 交流電力量消費率125Wh/kmは8km/kWhで、交流16kWhで128km走ることになります。電池容量16kWhで160km走行できますから、充電効率は

128/160=0.80

 で、資料1、2の記述、0.83より低いことになります。

5 まとめ

 科学的なデータを得るためには、

・適切な計測法を採用する。
・計測に関する知識のある人が計測する。
・得られたデータについて科学的な考察を行う(例:予想値との食い違いについて考察)。

ことが必要です。本キャラバンのレポート、まとめからすると、本キャラバンはこの条件をいずれも満たしていません。ですから、物理学の法則を逆転させるようなデータはもちろん、行程全体のデータの信頼性も乏しいものになってしまっています。

 本キャラバンのような取り組みは重要ですが、科学的な視点が全く欠けているのは残念です。

三菱自動車が行った特許出願(抜粋)

【0039】
例えば、急速充電の充電電力量を5[kWh]とし、車載昼間充電の充電電力量を1[kWh]とし、車載夜間充電の充電電力量を5[kWh]として保存する。更に、通信制御部120は、残電力量算出手段として、充電電力量の合計を5[kWh]+1[kWh]+5[kWh]=11[kWh]として算出する。
【0041】
上記例で言えば、急速充電については、充電電力量が5[kWh]で急速充電電気料金レートが10[円/kWh]であるから、5[kWh]×10[円/kWh]=50[円]である。車載昼間充電については、充電電力量が1[kWh]で昼間電気料金レートが21[円/kWh]であるから、1[kWh]×21[円/kWh]=21[円]である。車載夜間充電の充電量については、充電電力量が5[kWh]で夜間電気料金レートが7[円/kWh]であるから、5[kWh]×7[円/kWh]=35[円]である。これらの充電電力料金を総和すると、50[円]+21[円]+35[円]=106[円]となる。
【0042】
<残電力量1の算出> 通信制御部120は、残電力量算出手段として、SOC情報に充電電力量を合計して、残電力量を算出する(ステップS34)。上記例で言えば、SOC情報である初期残電力量が5[kWh]であり、また、上記ステップS32で求めた充電電力量が11[kWh]であるから、これらを合計すると、残電力量は、5[kWh]+11[kWh]=16[kWh]となる。
【0043】
<残電力料金1の算出> 通信制御部120は、残電力量算出手段として、初期残電力量と統一電気料金レートより、初期残電力料金を算出し、更に、初期残電力量に充電された電力量を合計して残電力料金を算出する(ステップS35)。上記例で言えば、初期残電力量が5[kWh]であり、統一料金レートが14[円/kWh]に設定されているから、初期残電力料金は、5[kWh]×14[円/kWh]=70[円]となる。また、充電電力料金の合計は、ステップS33で求めた通り、106[円]であるから、両者を合計すると、残電力料金は、70[円]+106[円]=176[円]となる。
【0044】
<電費の算出(走行後)>
電子制御部111は、走行距離積算手段として積算したODD情報[100m]と、消費電力算出手段として算出したバッテリの消費電力量[kWh]を通信制御部120へ送信する。通信制御部120は、消費電力相当料金算出手段及び電費算出手段として、以下の手順に従い、電費を算出する(ステップS36)。
【0045】
先ず、既に記録されていたODD情報と現在記録されたODD情報の差分を取ることにより、今回の走行距離を算出する。例えば、現在記録されたODD情報が40kmであれば、既に記録されていたODD情報20.0kmを差し引いて、今回の走行距離を20.0km(=40.0km−20.0km)とする。つまり、ODD情報は新しく記憶されたものからの差分となる。
【0046】
次に、バッテリの消費電力量[kWh]と走行距離、走行前の残電力料金より、消費に掛かった料金を求め、100円分の電力を消費するのに掛かった距離、即ち、電気料金100円相当の走行距離を算出する。算出された電費は、電費表示部122に表示される。
【0047】
例えば、消費電力量が3.0[kWh]であれば、残電力料金である176円を充電電力量である16[kWh]で除することにより、単位電力量当たりの電力料金(176[円]/16[kWh]=11[円/kWh])を算出し、この単位電力量当たりの電力料金(11 [円/kWh])に消費電力(3.0[kWh])を掛けることにより、消費に掛かった料金(消費電力相当料金)が11[円/kWh]×3.0[kWh]=33[円] として求める。つまり、通信制御部120は、消費電力相当料金算出手段として機能する。
【0048】
引き続き、今回の走行距離20.0[km]を消費に掛かった料金33[円]で除し(20.0[km]/33[円])、100倍することにより、100×20.0[km]/33[円]=60.6[km/100円]として、100円換算の単位料金当たりの走行距離である電力消費率、即ち、電費を求める。つまり、通信制御部120は、電費算出手段として機能する。算出された電費は、電費表示部122に表示される。
【0049】
<残電力量2の算出> 通信制御部120は、充電電力量から消費電力量を差し引いて残電力量を算出する(ステップS37)。
上記例で言えば、ステップS32で合計した充電電力量16[kWh]から消費電力量3.0[kWh]を差し引いて、16[kWh]−3[kWh]=13[kWh]が残電力量となる。

補足

 本キャラバンでは電気自動車のデータを「リッター11.4kmの燃費の軽自動車(軽自動車の平均燃費 神奈川県調べ)」と比較しています。本キャラバンではガソリン車が伴走していますが、伴走車も電気自動車のベースとなったガソリン車であれば直接の比較ができたはずです。本キャラバンの走行条件は燃費にとってかなり良いと考えられることからガソリン軽自動車の燃費もかなり良いデータが計測されるでしょう。

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