数字の持つ意味

 以下は、計算に用いる数字の根拠、数字の意味を理解していないと、誤った評価に繋がるという例である。

1 東京電力の主張


 東京電力では暖房1MJあたり排出されるCO2を次のとおりとし、エアコン暖房導入によるCO2排出量削減効果を主張している(http://www.kepco.co.jp/corporate/csr/report.html から引用)。

エアコン      15.0g
ガスストーブ  50.7g
石油ストーブ 67.8g
<試算条件>
CO2排出原単位:「地球温暖化対策の推進に関する法律施行令」より  ※電気は0.339[kg-CO2/kWh]
機器効率:エアコン暖房COP6.27、ガス・石油ストーブ効率1.0
エアコンはJIS標準条件の外気温7℃時の試算値 外気温2℃時の試算では、CO2排出量は29.4[g-CO2/MJ]

 エアコンのCO2排出量の計算式は次のとおり。

 0.339×1000×1000/(6.27×3600)=15.0

 ガスストーブ・石油ストーブの計算式は次のとおり(0.0138、0.0185は地球温暖化対策の推進に関する法律施行令別表第1の値)。

 ガス 0.0138×1000×44/12=50.6(上の値と異なる。東京電力が用いた排出原単位の根拠は分らない)
 石油 0.0185×1000×44/12=67.8

 問題は

・電気のCO2排出原単位 0.339kg-CO2/kWh
・COP 6.27

である。

 COPはCoefficient Of Performanceの略で、「成績係数」と訳される。定義は次のとおり。

 暖房能力(又は冷房能力)kW/エネルギー消費率kW

 エアコンを暖房で使用する場合、外気の熱を吸収利用するのでCOPが1より大きくなるが、外気温が低下すれば外気から得られる熱量が減少するので、COPも低下する。また、必要吹出温度が上昇してもCOPは低下する。

2 電力CO2排出原単位

 東京電力は次のとおり電力CO2排出原単位を公表している(http://www.tepco.co.jp/eco/report/glb/02-j.html)。

年度 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
CO2排出量
(10万t-CO2
836 876 898 850 940 910 866 888 841 894 922 874 1074 1272 1092 1061 976 1265 1207
販売電力量
(億kWh)
2199 2276 2301 2317 2489 2544 2574 2654 2670 2742 2807 2755 2819 2760 2867 2887 2876 2974 2890
CO2排出原単位
(kg-CO2/kWh)
0.380 0.385 0.390 0.367 0.378 0.358 0.336 0.335 0.315 0.326 0.328 0.317 0.381 0.461 0.381 0.368 0.339 0.425 0.418

 また電力の種別構成比は右図のとおり公表されている(http://www.tepco.co.jp/csr/sustainability/best_mix-j.html)。

 原子力、水力、地熱・新エネからはCO2が排出されないものとし、その他の排出源から排出されるCO2合計量と販売電力量からCO2排出原単位が計算される。

 しかし、時間帯によって電力需要は変化し、どの時間帯も右図と同じ電力種別構成比というわけではない。

 電力会社の時間ごとの電力構成は、一般に右図(九州電力の例(http://www.kyuden.co.jp/effort_thirmal_load_indexから引用))のようになっており、原子力、石炭火力をベースとし、昼夜間の電力需要の変動をガス火力・石油火力等で調整している。このため、9〜1時頃(つまり深夜・朝を除く時間帯)で節電すれば、石油火力・ガス火力発電量が減少するし、その時間帯で電力使用量が増加すれば石油火力・ガス火力発電量が増加する。

 従って、この時間帯における電力→石油・ガス、あるいは石油・ガス→電力の転換等を議論する場合は、石油火力・ガス火力発電のCO2排出原単位で議論する必要がある。

 平均CO2排出原単位は、その言葉どおり、ある年の電力量とCO2排出量との平均的な関係 を示すだけのものでしかなく、行動の方向性を議論するために用いると、誤った結論を導くことになる。

 なお、右図は九州電力の2001年度の最大電力日の状況を示すものであり、平均的なものではないが、傾向は同じである。
 また、1〜9時頃でも石油火力・ガス火力発電が行われているが、この時間帯の電力需要が増大した場合、石油火力・ガス火力発電量を増加させるのか、原子力発電量を増加させるのかは分らない。

 
3 石油火力発電によるエアコンの評価

 増加する電力需要に対しては石油火力発電又はガス火力発電のCO2排出原単位で評価すべきである。石油発電による推定CO2排出原単位を0.707kg-CO2/kWh(末尾の備考参照)、COP6.27として、エアコンのCO2排出量を求めると次のようになる。

 0.707×1000×1000/(6.27×3600)=31.3kg/MJ

 東京電力の主張の倍以上の値になる。もちろんこれはCOP6.27(JIS標準条件の外気温7℃時)の試算値である。東京電力は外気温2℃時にCO2排出量が29.4g-CO2/MJ(COP3.20に相当)になるとしているので、COP3.20を用いて推定石油火力発電CO2排出原単位からエアコンのCO2排出量を求めると

 0.707×1000×1000/(3.2×3600)=61.4g/MJ

となり、ガスストーブより多くなる。寒冷地ではさらにCOPが低下することが考えられるし、COPは外気温、吹出温度のみならず、室外機−室内機のホースからの熱損失、機器の劣化によってさらに低下することも考慮しなければならない。

 なお、夜間に石油火力発電需要が増大すれば、その排出原単位は0.707kg-CO2/kWhより大きくなる(ただし、夜間電力需要が増加すれば発電効率が改善され、その推定石油火力発電排出原単位は0.860kg-CO2/kWhより改善される)。

参考 
 パナソニックの家庭用エアコンの暖房時(外気温2度)の暖房能力と消費電力(http://panasonic.jp/aircon/pdf/aircon_shiyou.pdf)からCOPを計算し、全機種平均すると3.0になった。この値を用いるとCO2排出量は7%増加する。

5 まとめ

(1)エアコンに転換した方がガス・石油暖房よりCO2排出量が少ないとされているが、その根拠に平均CO2排出原単位を用いることはできない。新たに増加する電力のCO2排出原単位は平均CO2排出原単位より大きいからである。

(2)エアコンのCOPは条件(外気温、吹出温度、ホース等の熱損失等、機器劣化)によって大きく変化することを考慮する必要がある。

(4)エアコンとガス・石油暖房との差は東京電力の主張ほど大きくなく、逆転する場合もある(特に寒冷地)。

(5)事業所のヒートポンプ空調機器として、電気圧縮式とガス吸収式を比較する場合も、(1)〜(3)の問題点は共通である。

 

備考 電力増加によるCO2排出原単位

 供給電力100kWhあたりの電力種別・昼夜間別CO2排出量、CO2排出原単位を試算すると下表のとおりとなった。なお、発電所内損失を考慮した東京電力公表排出原単位は0.418kg-CO2/kWh(2008年度)である。

電力種別 供給電力
kWh
発電所端供給
電力 kWh
発電効率 
(HHV)
係数 発熱量
MJ/kg (HHV)
CO2 
kg
排出原単位
kg-CO2/kWh
原子力 23 24.2 - 0 - 0 0
水力 6 6.3 - 0 0 0
LNG 28 29.5 43 0.0135 54.5 12.2 0.414 0.445
9 9.5 33 5.1 0.540
LPG 6 6.3 43 0.0163 50.2 3.2 0.500 0.538
2 2.1 33 1.4 0.652
石炭 9 9.5 38 0.0247 26.6 8.1 0.858
石油 12 12.6 38 0.0247 39.1 8.3 0.657 0.707
4 4.2 29 3.6 0.860
その他
ガス
0.75 0.79 43 0.0163 50.2 0.40 0.500 0.538
0.25 0.26 33 0.17 0.652
100 105.3 38.6
42.5(LHV)
- - 42.5 0.403
0.420(所内損失考慮)
備考
(1) 種別供給電力は2上図による。
(2) 発電所端供給電力は送電ロス5%として計算。
(3) 昼夜間の発電量(kWh)の比率は昼:夜=3:1(ここでは夜間を23〜10時とした)。
(4) 発電効率は表のとおり。
 ・LNG・LPG・その他ガスの発電量の「排熱回収型コンバインドサイクル」と「蒸気タービン及び排熱再燃型コンバインドサイクル」の比は6:4。
 ・石炭火力はベース電力を担うため発電効率が変動せず、ガス火力・石油火力は夜間に発電効率が低下するものとした。
(5) その他ガスの平均的性状はLPGと同等。
(6)発電所利用・揚水発電用電力は全発電所端供給電力の4%。
雑誌等の記事