マグネシウムエネルギー |
あちこちで「マグネシウム文明」なる言葉を見かける(Amazon)。エネルギー問題を解決する夢の技術、無尽蔵のエネルギーが得られるように思われているようだ。まずはこちらの記事をお読みいただきたい。
http://www.electra-mg.com/electra-cycle1.html
この中に次のような文がある(かっこ内は私が記入したもの)。
「マグネシウムを水と反応させるとモル当たり86キロカロリー(360kJ)の熱と水素を発生します。この水素を燃料電池として使用したり、水素燃焼エネルギー58キロカロリー(243kJ)を使うこともできます。反応生成物である酸化マグネシウムは、太陽光や風力などの自然エネルギーを用いてマグネシウムに戻すことができます。これにより、安定供給の難しい自然エネルギーを貯蔵することができるのです。」 (矢部東工大教授)
マグネシウムと水から水素を得る化学反応式は、 Mg + 2H2O →(発熱)→Mg(OH)2 + H2 →(吸熱)→ MgO + H2O + H2 したがって、収支は次のとおり。
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これを分割すると
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Mg + H2O ↓ (602kJ(発熱)) |
矢部教授のいう360kJは(602-243)kJだろう。そして反応生成物の酸化マグネシウムが容易に還元できるように書いているが、単純に考えても酸化マグネシウムの還元には602kJ/molのエネルギーが必要である。エネルギー保存の法則から当然のことであり、この「マグネシウム→酸化マグネシウム→マグネシウム」サイクルは何ら新しいエネルギーを生んでいるわけではなく、その意味で矢部教授のいうように「自然エネルギーの貯蔵」でしかない。
●Mg + 2H2O → Mg(OH)2 + H2 → MgO + H2O + H2の反応で発生するエネルギー360kJ/molは、暖房・給湯ぐらいにしか利用できないのではないか。このエネルギーから動力を取り出そうとすれば、(温度が高くないため)低い効率しか得られない。 |
従って、「自然エネルギーの貯蔵」を謳うのであれば、どれだけ少ないエネルギーで酸化マグネシウムを還元できるかが鍵になる。このことについて矢部教授は次のように書いている。
「酸化マグネシウムを還元するのに必要な温度1万度を達成するには外部から4.2MJ/kgのエネルギーが必要であるが,これは水素が燃焼して発生する熱120MJ/kgに較べてはるかに小さい。」(http://www.mech.titech.ac.jp/~ryuutai/yabejp.html)
ここで、
●「水素が燃焼して発生する熱120MJ/kg」の120MJ/kgは、「水素5000モルあたり120MJ」
●「酸化マグネシウム〜4.2MJ/kgのエネルギー」は、「酸化マグネシウム24.8モル当たり4.2MJ」
である。1モル当たりに換算し、上の文に当てはめると、
「酸化マグネシウムを還元するのに必要な温度1万度を達成するには外部から169kJ/molのエネルギーが必要であるが,これは水素が燃焼して発生する熱240kJ/molに較べてはるかに小さい。」
になる。この「169kJ/mol」は上の603kJ/molに比べて少ないが、169kJは還元のエネルギーではなく「温度1万度を達成」するためだけのエネルギーのようだ。そして、酸化マグネシウムの還元エネルギーを小さく見せかけるために、モルあたりではなく質量あたりで比較していることが致命的である。
「エネルギーが無尽蔵に得られる」と勘違いした記事の根拠はこの程度のレベルである。このような記事があっという間に広がってしまうこと自体が、日本の教育レベルの現状を表しているといえるかもしれない。
プラズマ・核融合学会誌2007-6で、矢部教授は次のように書いている。 マグネシウム100グラムは100/24.3=4.11mol 矢部教授の実験では、1×40×60=2400kJの水素が発生したということなので、収率は240%になる・・・ |
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