電気自動車 - i MiEV のデータから |
電気自動車(EV)は走行距離あたりのCO2排出量が少ないとされています。ここでは三菱自動車のi MiEVのデータを使用して考えてみます。
資料1 | http://www.mitsubishi-motors.co.jp/corporate/technology/report/pdf/technical_review_2007.pdf |
資料2 | http://www.mitsubishi-motors.co.jp/corporate/technology/report/pdf/technical_review_2008.pdf |
1 総合エネルギー効率
資料1、資料2いずれも下表の総合エネルギー効率を載せています。
車両種別 | Well to Wheel | ||
Well to Tank | Tank to Wheel | (総合エネルギー効率) | |
電気自動車 | 精製・発電・送電 43%※ | 走行効率 67% (充電効率83%含む) |
29% |
ディーゼル車 | 精製・輸送 88% | 走行効率18% | 16% |
ガソリンハイブリッド車 | 精製・輸送 82% | 走行効率30% | 25% |
ガソリン車 | 走行効率15% | 12% |
※ 日本の平均電力構成より算出 |
この表を出すことで、電気自動車の「環境性能のよさ」を訴えていますが、この表をそのまま信じてはいけません。
この表の考え方で比較するなら、ホンダ・スーパーカブはプリウスより環境性能が低い
ことになります。誰もがスーパーカブの燃費がプリウスよりよいことを知っているのに逆の評価になるのは、評価方法が間違っている、あるいは大事な前提が抜けているからです。この表が比較しているのは
車のエネルギー効率ではなく、原動機・トランスミッション等のエネルギー効率
です。車重が小さい方が燃費がよいことは常識なのに車重を評価に加えていません。そして電気自動車はガソリン車より車重が大きいのが通例です。大事な条件を無視して電気自動車のよさを訴えていることに胡散臭さを感じてしまいます。
このように書くと、「極端過ぎる」とおっしゃられる方がいます。そのような方に限って、極端だと何が問題なのかを指摘できません。「極端過ぎる」は科学的評価ではなく文学的評価に過ぎないのです。 |
2 10・15モード電費
資料1では、電池総電力量16kWhで、10・15モードでの走行距離は130kmとしています。また、資料2では走行距離160kmを2007フリートテストでの目標値としています。また、2009年5月現在の三菱のサイトは諸元表全体が「2008年実証走行試験用車両 目標値」となっています。全長や全幅が目標値の訳はなく、目標値とは最高速度、一充電走行距離と考えられます。ここでは資料1の130kmで考えます。
電池の電力量あたりの走行距離は、
130/16=8.13km/kWh
これは充電後の電池によるものなので、充電効率0.83、Well to
Tank効率0.67を考慮すると原燃料ベースの10・15モード燃費は
8.13×0.43×0.83=2.90 km/kWh
になります。
一方、プリウスの10.15モード燃費35.5km/LをWell to
Tank効率を乗じて、原燃料ベースに換算すると、
35.5×0.82=29.1km/L
ガソリン比重0.75、発熱量44MJ/kgとし、kWhベースに換算すると
29.1/(0.75×44000/3600)=3.17km/kWh
となり、原燃料ベース10.15モード燃費では、プリウスがi MiEVを上回っています。しかもi MiEVの車重1080kgに対してプリウスは車重1260kgと重たいのですから、上表の総合エネルギー効率とは逆に、ハイブリッド車の方が電気自動車より実エネルギー効率が高いように思えます。
別の比較の仕方をしてみます。
原燃料のエネルギー量を100kWhとします。 電気自動車では、 原燃料100kWh→発電・送電43kWh→充電35.7kWh 電池容量16kWhで130km走ることができるのですから、原燃料100kWhで プリウスの場合、 原燃料100kWh→精製・輸送後82kWh (82×3600/44000)/0.75=8.945 L |
10.15モードの問題については別に書くことにしています。
3 走行電気代
資料1、2では、100kmあたりの電気料金(昼間)を220円としています。これは次のとおり、切り下げられた数字です。
(1) 電力を供給電力ではなく電池容量で計算
電池容量16kWhは電池容量であって電気自動車に供給された電力ではないにもかかわらず、電気単価は供給電力で計算されています。したがって、供給電力で計算する場合に対して充電効率0.83倍に切り下げられています。
(2) 満充電走行距離160kmで計算
計算式は、(100/160)×16×22=220 円/100kmです。
この160kmが前述のように目標値であれば、満充電走行距離130kmで計算した場合に対して、13/16=0.81倍に切り下げられています。
(1)と(2)を合わせると、(13/16)×0.83=0.674倍に切り下げられていることになります。
2009年6月5日、i MiEVの市場投入に関するプレスリリースでは次の諸元になっています。市場に投入されるものは満充電走行距離160kmになるようです。ですから(2)は2009年6月時点では無効です。
交流電力量消費率125Wh/kmは8km/kWhで、交流16kWhで128km走ることになります。電池容量16kWhで160km走行できますから、充電効率は |
4 LCAによる比較
ここまではエネルギー使用量による比較でしたが、CO2LCAについて考えてみます。
プリウスとのCO2LCA比較で書いたように、プリウスは製造段階で通常のガソリン車よりエネルギーを要しており、同クラスガソリン車に追いつくためには35000km、ヴィッツに追いつくためには100000km程度の走行距離が必要です。
電気自動車も製造時にガソリン車より多くのエネルギーを要しているのではないか、という懸念があります。i
MiEVの電池容量は16kWhですが、これはプリウスの10倍余りだからです。トヨタが行った電気自動車RAV4 EVのCO2LCA(100000km走行)ではプリウス(旧型:29km/L)とCO2排出量が同等になっています。(PDFファイル)。細かいデータは分りませんが、電気自動車の製造時のCO2排出量はプリウス(旧型)より大きいはずです。
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MiEVも製造時のエネルギー消費量がかなり大きく、それを取り返し、ハイブリッドカーに追いつくためには100000km以上走行距離を伸ばす必要があるのではないかと想像します。
ただ、電気自動車は走行距離を伸ばすことが難しいし、逆に走行距離を伸ばせば電池の交換頻度が高まる(エネルギー消費)でしょう。
どちらにしても製造時、整備時を含めた詳細な検討が必要ですし、その評価がされていない資料1、2は技術資料としては意味があったとしても、電気自動車のガソリン自動車に対する評価としては無意味です。
4 まとめ
(1)電気自動車のよさを総合エネルギー効率で示されることが多いですが、これは車の効率ではなく、原動機・トランスミッションの効率です。
(2)公表されたデータからすると、電気自動車の実総合エネルギー効率はガソリンハイブリッドより劣る可能性がある。
(3)公表されたkWhあたりの各種データは充電ロスが考慮されていない。
(4)電気自動車の10000km走行時のCO2LCAデータが明確ではありませんが、ガソリンハイブリッドカーに劣る可能性があります。
補足 「電気自動車の利点はエネルギー効率だ。GMによると「ボルト」の場合、ガソリン併用時の燃費効率はトヨタ・プリウスの約2.7倍。しかも充電エネルギーだけで走る場合、走行中の排ガスはゼロ。ガソリン併用時も、二酸化炭素排出量はプリウスの半分以下という。」 これは2009年5月6日朝日新聞朝刊の記事ですが、 素人記者を騙すには嘘は不要、幾つかの仮定に基づいた数字を列挙するだけで十分 |
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